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イヤープラグを愛用するプロドラマーがリアルな体験を語る
( Special Interview:Takeshi Okitsu (Drs.)Who Uses Musicians’ Earplugs)

公演のためSensaphonics Japanラボのある山梨を訪れたドラマーでミュージシャン・イヤプラグの愛用者である沖津毅氏に、再製作したイヤプラグをわたす機会を利用してインタビューを行いました。難聴の発症からイヤプラグの必要性まで赤裸々に語ります。

イヤモニ、イヤープラグの開発製作者が直接、アーティストのレアな経験談に迫ります!

INTERVIEW

    沖津 毅  氏

(ドラマー)

語ってくれた人 TAKESHI OKITSU【沖津 毅

 1980年生まれ・神奈川県出身。高校卒業後、ドラマーとして本格的に活動を開始。嶋大輔のサポートメンバーを務めたほか、オールジャンルで数々のアーティストのライブやレコーディングに参加する。ドラムテックとしても活躍。

STUDIO HIP ドラムスクール→https://studio-hip.net/

聞いた人【大八木哲夫】TETSUO OOYAGI

センサフォニクス・ジャパン代表【ジェイフォニック㈱代表取締役】

 世界屈指のIEMブランドを牽引し、長淵剛、桑田佳祐、椎名林檎、往年の安室奈美恵など、多くの国内アーティストのイヤーモニターを製造。米国アーティストではアッシャーやビヨンセなども担当している。2004年に日本初のIEMを製造して以来、現在でも新機種開発を手掛けるイヤモニ・クリエイターにしてプロダクト・デザイナーでもあり、実は“カスタムIEM”という呼称の命名者。米国本社と連動し、音楽家の聴覚保護運動にも取り組んでいる。

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「ミュージシャン・イヤプラグは聴いている音のバランスをそのままきれいに落としてくれている感じがあった」

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ライブハウスで演奏後に異変

大八木:耳を守ることが大事だとお話されていたので、ぜひそのあたりを聞かせていただきたいと思います。自分の耳が心配になり始めた人にとっては、ユーザーの話がいちばん響く。『俺と同じじゃん』って……最近は『私と同じじゃん』も多いんですけど。まだデビューするかしないかぐらいの人たちでも、耳はすごい傷んでいますね。学生時代にライブハウスでノーケアのままバンバン大きな音でね……

沖津:あー。まあ元気ですからねー。

大八木:で、ご自身で気付かれたときは耳鳴りが?

沖津:キーンというのがありましたねぇ。

大八木:で、翌朝には治っていたから大丈夫だ、みたいな?

沖津:むしろ、そんなのまったく気にしなかったと思います。

大八木:そうでしたか。若い頃から叩いてらっしゃったんですか?

沖津:ドラム自体は小学校から触っていて、中学校ではバンドで遊んでいて、高校終わった頃、将来どうしていこうかって考えて。それだけ長期間、痛めつけていたわけですね。

大八木:それまでは気にならなかったですか?

沖津:自覚があったのはライブハウスで、僕の真横にあったメンバーのスチールギターのアンプがすごいアタックの音を拾うんですよ。ものすごく硬くて音自体もデカくて、その日、自分のシンバルを叩くたびに耳が痛かったんです。キンキンした部分が耳に刺さるみたいになって、なんだこれ!? って。耳の中でハウリングが起きている感じで大きくなって。

大八木:それまで、そういう経験は?

沖津:いや、ちょこちょこはあったんです。でも、なんでそうなるかって意識がそもそもなく、耳のケアも一切考えたことなかったので、変な音するなあ、で終わっちゃって。そのままいろんな現場でやって、その日も結局、普通に会話もできるし気にすることでもないやと。で、車でいつも流している音楽を聴いたときに初めて、明らかにおかしいと。あのときは片チャン飛んだと思ったんです、急にいつも聴いているバランスじゃなくなって。それこそハイのスピーカーが落ちたみたいになっていて。

大八木:でも最初は機械を疑いますよね? アーティストが初めてイヤモニを導入したときも機械のバランスが急に整って、余計な音も聴こえなくなるのでセンターがズレるんですよね。そうすると、あ、これ機械の出力おかしいんじゃないの? って、現物が一度戻ってくるんですよ。でも、機械自体は左右ズレてないし、音質バランスも変わってない。

沖津:頭ん中でもう直しちゃっていたんでしょうね、不具合に慣れちゃって。

大八木:そうなんですよ。あと、転がしでやっていると音が回り込むので、まあズレるだろうと受け入れちゃってたんですよね。けれど、イヤモニの場合はバシッと左右が区切られちゃうんで。製作側としてはもう、機械のほうは大丈夫です。とまでしか言えなくて。聴覚の問題では?なんて言うと、著名な方々もいるので大きな芸能ニュースになっちゃいますから。

沖津:僕もイヤープラグ導入して耳鼻科の先生に言われたのが、とりあえず慣れてくれって。最初は気持ち悪いかもしれないけど、人間の脳って今度はそれでちゃんとバランス取るようになってくれるからって。そうしたら今、ミキシングやマスタリングも特に違和感なく、ストレスなくなりましたねぇ。

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フラットな遮音で疲れ方も軽減

大八木:ちなみに、このイヤープラグはどなたかからのご紹介で?

沖津:いえ、自分で探して。実はいろんなやつ買いまくったんですよ。最初はやっぱり金額が……(市販のと)比べたら高いじゃないですか。で、安いのから試してみて、自分なりにこれでいいってものがあれば、と思ったんですけど、どうしてもシンバルの表現やタッチが変わっちゃって。で、これは慣れちゃいけない部分だろうと、いろんなブランドのホームページ見て。売り文句としてはセンサフォニクスさんがいちばんいいと思いましたよ。

大八木:そうなんですか? 情報が少ないってよく言われまして。

沖津:必要な部分はあるじゃないですか。本当はこのフィルターが、どの音域でどれだけ音量がカットされるって出ていると完璧ですけど。

大八木:そうですね。その数字がわかるグラフ*はあるので出せますね。(巻末参照)

沖津:ぜひやったほうがいいです! それで僕、前回この遮音量15デシベルと25デシベルっていう2つのフィルター買ってみて、もちろん25のほうが耳に優しいのはよくわかったんですけど、やっぱり表の通り、ほんのちょっと癖が出る感じがしたんですよ。先入観で勝手に思っているだけかもしれないですけど、ハイの部分が強く落ちているって感じて。

それに比べて遮音量15のほうはかなりフラットじゃないですか。それがすごいありがたくて。聴いている音のバランスをそのままきれいに落としてくれている感じがあったんですよ。

大八木:でも、15デシベルカットでもケアとしては相当いいですよ。よく僕が説明するのは、3デシベルで体が受けるダメージ量は半分くらいになると。3デシベルで半分なので、15デシベルっていうと半分が5回あるので、受けるダメージは3%ほどにまで下がる。

沖津:すごいことですよね。

大八木:しかも、エネルギーを受ける細胞のダメージがそれだけ変わっても、3デシベルの音量差はそれほど感じない。そうすると半分ってすごいことで、20年しかできないものが40年できることになる。3デシベルでもそうなので、9デシベルに下げると、50歳まででダメだったはずのものが、400歳くらいまでできる。

沖津:ははははは。

大八木:それが50歳の人か、10年が限界なくらい激しく酷使している人か、人によって違うでしょうけど。

沖津:いずれにしても、演奏したあとの体の疲れ方が全然違うんですよ。もうビックリしましたね。それが耳から来ていたダメージだったのかはわからないけど、すごい違いますから。

あと、安い耳栓だとバランスが変わって自分の感覚も変わるから、変な集中や力みが出て、手から体から疲れちゃうんですけど、15デシベル遮音はそういう疲れがなく、逆に体が楽になる。ああ、こりゃいいぞって手放せなくなる。

大八木:そうらしいですねぇ。僕自身、ライブなどで(イヤープラグを)付けると、付けないでいるのが怖くなりますよ。最近はお客さんも付けていますし。

沖津:ですねぇ。

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 「不便が出てきて、焦って、自分を見つめ直して、ちゃんとケアしなきゃって」

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大音量による危険性への認識不足

大八木:ライブに行くのが生きがいの人もいて、耳を傷めて医師にライブを禁止されたりすると、これだけ予算をかけてもイヤープラグをつくるという。

沖津:けど、それがいちばんいい選択だと思います。知り合いのPA屋さんとよく話をするんですけど、昔は東京ドームで演奏すると音がグァングァンに回って、何やっているのか聴こえないくらいだったのが、今はPA機材も進化してかなりクリアに聴こえるようになったじゃないですか。スピーカーの性能が上がって指向性がすごく強くなって、音が直撃だととんでもないエネルギーが来ちゃう。ホント最近のライブは危ないし、怖いですよ。

大八木:アメリカでは音量規制をかけようって話が出ていて、昨年(2015年)、WHOが主導で動き出したんですよね**。(巻末参照)

イヤフォンのボリュームも無制限だし、ライブの音量も管理されてない。お客さんがどれだけダメージを受けているかってことを誰も考慮していない。これをケアしないとまずいって。で、アメリカの有名なミュージシャン。コールドプレイとかアッシャーとかも集まって意見交換したと。

沖津:へえー。けど、必要なことだと思いますよ。

大八木:それがアメリカで始まると、今度は日本でもライブでの音量は何デシベルくらいに抑えるべきって話が出てくると思うんですよね。まあその問題以前に、日本のミュージシャンの場合はイヤープラグやイヤモニ自体、アメリカより導入が遅いですけど。

沖津:びっくりしますよ。僕、年上の先輩方とご一緒することが多いですけど、そういう方々ってほぼ漏れなく難聴ですね。

大八木:もう職業病だからしょうがないんだよ、みたいな。

沖津:そう、特に大きな問題とも思ってない感じで。そんなもんでしょ、みたいに言われちゃって。ははは。

インタビュー後、沖津氏作製のフルシェルタイプ(イヤモニ型)のミュジシャン・イヤプラグ。従前利用していたカナルタイプに比べ装着安定性が高まる。

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誰しもが気を付けるべき問題

大八木:といっても、音楽ずっと続けていても問題だしね。音楽やっていた人は、たとえプレイしなくなっても音楽を聴いていたいと思いますけど、難聴になったら補聴器で聴くことになりますから。

沖津:たまんないですね。どうしても五体満足なことに慣れすぎちゃって、聴こえていればいいや、くらいにしか思っていなかったかもしれないけど、今回、難聴になっていろいろ不便が出てきて、焦って、自分を見つめ直して、やっぱりちゃんとケアしなきゃダメなんだって。

大八木:健康診断でも聴覚検査は視力検査ほどきちんとしないですもんね。本人の自覚だと25とか30デシベルとか聴力が落ちないと気がつかないから、早期対応が難しい。脳がどんどん補正していって慣れさせるので、大丈夫になっちゃって、少しずつ聴こえなくなっていく。車を運転していて劇的に、あれ、音がなくなった、なんて現象は珍しいですよ。でも、はっきり気づける機会があったのは、悪くはなかった。

沖津:これがもっとあとで、もっとひどい状態になっていたら悲劇でした。

大八木:実は、工場勤務が騒音性難聴の原因になっていたとしても、症状は何年もあとに加齢の症状と一緒に現われたりするんですよ。だから今まで、若い世代で騒音性難聴が如実に現れることは表面化していなくて、耳鼻科でもあまりケアしていなかったようです。

〔注〕本インタビュー後音楽家の騒音性難聴への取り組みが2020年4月に始まっている。【ミュージシャン専門外来・音楽家の専門治療が始まる】

沖津:僕が病院行ったときは、いろいろ検査して数値を見た先生が『あんた工場かなんかで働いてんの? これもう労災になるようなことだよ』って。だから、突発性ってけっこう身近にあったんだってわかりましたよ。

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耳のケアは早いに越したことはない!

大八木:特にミュージシャンは多い。ただ、早い段階で説明する機会があれば、すぐ理解してケアを始める人もいますね。

沖津:知らなければ、耳鳴りとか軽く感じておかしいなって思うようになっても、それが難聴によるものなのか、不摂生とかから来るものなのかって区別がつかなくて戸惑いますよね。耳鳴りくらいで病院に行こうなんて思わないし。で、どうしても最初の一歩が遅れちゃう。僕の周りでも、僕がこうなった話を聞いて相談してくれる人がいて。ギターの人で、今けっこう耳鳴りとか起きるって。それ難聴になる一、二歩手前だから、2、3日で収まらないようだったら処置したほうがいいって言いましたけど。

大八木:一時的に治っても繰り返しになるんで、本当は2、3日で治るステップに入る前に手を打つほうが得なんですけどね。風邪薬を早く飲んだほうがいいのと同じで、熱が出る前に軽めの薬を飲んでおけば、大事にならないで済む。進行しちゃうとそこから戻れないですから。

沖津:聞いた話だと、聴力って、たとえば100あったパワーが減っていって、最終的に聴こえなくなるって。そのパワーが50に減っても、休んだからといって80まで戻ることはなく、50は50のまま、またそこから減っていくしかないっていう。それ聞いたら、早いうちにケアするに越したことはないと。

大八木:耳の有毛細胞がくたびれちゃって、完全なダウンではない休止・半死状態みたいなときは回復するんですよ。そうやって一時的に回復するから、治るって誤解されちゃうのがまた問題で。そのうち本当にダウンしてもう回復しなくなる。だから回復しているうちに、いずれ回復しない可能性のある症状を繰り返しているという知識、これはまずいぞっていう認識をみんなが持てればと。次は戻らないかもって思えれば、すぐケアし始めると思うんでね。

沖津:そうなんですよ。けど、こういうのは倒れきらないとわからなかったりする。

大八木:知らないとなかなかね。1回目のダウンか、できればその前にケアし始めてくれれば、と思いますけど、よほど用心深いか、身近にケアしている人がいないと。前に相談を受けたバンドは1人がひどくなって、その問題がバンドの中に波及して、全メンバーでイヤープラグを使うことになって。この記事を読んだ人にも、同じバンドのメンバーから聞いたような感覚を持ってもらえればねぇ。

沖津:これは決してハードロックとかヘヴィメタルの世界だけの話じゃないんですよね。

大八木:そうです、音量差はあっても、そこにいる状態は変わらないですから。

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シリコン製は使い勝手がいい!

沖津:ただ、シンバルとスネアのアタック音の早い、バン! って来る音圧感はストレスですね。今、イヤープラグ失くして3日くらいですけど、ドラムの練習が全然できなくて。スティックで思いきり叩くのが怖くて、ブラシみたいなのを使ってやるくらいで。

大八木:叩く場合、イヤープラグを付けていると音量的に減る部分がありますよね。導入してすぐは音量が減った印象が大きくて、叩きすぎちゃうって話を聞くんですけど。

沖津:叩きすぎるって、周りの音が聴こえている人はたぶんないですよ。全体のバランスを聴きながら自分の音量を叩いている人は、勝手に自分で音量をコントロールしているので。それができない人とか、苦手な人っていうのは、たぶん叩きまくっちゃうんでしょうね。だからこそ、本当にフラットに下がってくれるっていうのがすごく大切だったんですよ、僕の中で。で、この15デシベルカットの音圧レベルグラフを見たとき、ああ、これだって。正直、最初は他のメーカーで考えたけど、数値*を見ると、ある1つの周波数だけやたら凹んでいるとか、ちょっと惜しいんだよなっていうのがあって。

大八木:他のメーカーのはソフトシェルですかね? いずれにしても、Sensaphonicsは柔らかさが全然違うって聞きますね。

沖津:うん。

沖津氏製作のIEMの2XS。会場のモニター環境によってIEMとイヤプラグを使い分けている。

大八木:トランペットの人だったかな、やっぱり顎が動くんで、モールドが柔軟に動いてくれないと押し出されちゃうって言って。ちなみに、イヤモニのほうも音を聴いてみると……

沖津:そうなんですよ。レコーディングとかでよくヘッドフォンをしますけど、あれだけでなんか疲れちゃうんで。

大八木:特にドラムの人は体が動くので、ズレてくるのを直さなきゃいけない。あとヘッドフォンの弱点は、遮音を上げるためには圧迫を強くしないといけない。それって、「プロレスラーに3時間も4時間も頭を押さえつけられてごらん?」って言っていた人もいるくらいで。

沖津:ははは。ストレスですよね。何よりね、この耳の外から鳴ってくる感じが鬱陶しくて。頭の中で鳴ってくれていると音を上げなくて済むし、リラックスできるんですけど。そうやって耳のケアをもっと考えないといけないですね。

大八木:ぜひ、そうしていただければ。貴重なお話ありがとうございました。

《本インタビューは2019.5.22公開後、イヤモニター納入の際に沖津氏が主宰するドラムスクールのSTUDIO HIP(平塚:神奈川県)に伺い追加取材を行い撮影された写真・内容を加えて2021.6.18リメイク再公開されました。》

* Musicians’ Earplugsの

各フィルターの遮音バランス(周波数遮音量表)

フィルターは三種類になり、ER-99dBの遮音量。ER-15ER-25はそれぞれ15dB25dBの遮音量となる。この表では、各線は下降するほど遮音量が増し、上昇するほど遮音量が下がる。縦軸の0dBの横線からどれだけ減音するのかを示している。横軸は周波数。各フィルターの遮音量は高音域帯で増していく傾向にある。

FORMはフィルターがなくシリコンモールドだけで作製したイヤプラグ(弊社ではスリーピング・イヤプラグと呼んでいる)での遮音量。シリコン製イヤモニターの遮音量と同じになる。遮音量の詳細

なお、人間の一般に聞こえる周波数の範囲(可聴域)は、低い音で20Hz、高い音で20kHzくらいまでの間となるが、実際の最少音圧レベルでの可聴範囲は 60 Hz から 16 kHz 程度が可聴範囲とされている。

** 2015年からWHOが主導で動き出した音響器機等の音量問題の研究をベースに2019年、WHOとITUが音量規制に関する世界基準

WHO-ITU STANDARD」 を発表

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