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ティンパニ奏者の安藤芳広氏がミュージシャンイヤプラグの有用性を語る
(Timpani player Yoshihiro Ando talks about the usefulness of ear plugs.)

演奏家にとって聴覚の大事さと早めのケアの必要性を難聴の実体験から発する「生の声」は大きな警鐘を鳴らしています。ミュージシャンイヤプラグを利用中の東京都響で活躍するティンパニ奏者の安藤芳広氏に、センサフォニクスの代表が伺いました。その1

「ティンパニ&打楽器奏者」の「安藤芳広氏」に聞く!(前編/全2回)

【PART 1】

人間って、本当にやばくなるまでやばいと思わない。

 

ミュージシャンイヤプラグを長く使っている東京都交響楽団で活躍する打楽器奏者に、製作者が音量問題や聴覚保護について伺った。演奏家にとって聴覚の大事さと早めのケアーの必要性を説き、実体験から発せられた「生の声」は大きな警鐘を鳴らしている。

YOSHIHIRO ANDO

安藤芳広

1987年 東京芸術大学音楽学部器楽科卒業
在学中よりオーケストラを中心にさまざまなエリアで活動開始
1993年 東京都交響楽団入団
1995年 首席ティンパニー&打楽器奏者に就任、現在に至る
1997〜1998年 アフィニス文化振興財団の派遣によりドイツ・ベルリンへ留学。ベルリン・フィルのソロ・ティンパニストであるライナー・ゼーガース氏のもとで研鑽を積んだ。

「吹奏楽コンクール全国大会出場常連校をはじめとする高校、一般バンドの全体及びセクション指導や、各地で開催される講習会等の講師として、また全国、支部大会等のコンクール審査に招かれるなど、吹奏楽の分野にも造詣が深い。」
 
《武蔵野音楽大学専任講師、沖縄県立芸術大学講師》


TETSUO OYAGI

大八木哲夫

センサフォニクス・ジャパン代表 【ジェイフォニック㈱代表取締役】

世界屈指のIEMブランドを牽引するとともに、長淵剛、桑田佳祐、椎名林檎、安室奈美恵など、多くの国内アーティストのイヤモニターを製造。

米国アーティストではアッシャーやビヨンセなども担当している。2004年に日本初のIEMを製造して以来、現在でも新機種開発を手掛けるイヤモニ・クリエーターであり、実は“カスタムIEM”という呼称の命名者。

この十数年は米国本社と連動し、音楽家の聴覚保護運動・ミュージシャンイヤプラグの利用普及にも精力的に取り組んでいる。


 

■きっかけはドイツの楽団員の紹介

大八木:さっそく、ミュージシャンイヤプラグ(Musician’s Earplugs)を実際に使われている方の本当の声ということで。まず最初につくられる前に、これはどうだろう? といった疑問もあったのでは?

安藤:まあ、安くはないですしね。

大八木:そうですよね。でもクラシックをはじめ、さまざまなジャンルの音楽関係者に使っていただいて、ヘヴィメタとか特に大きな音に晒されるユーザーも増えてきまして。

安藤:そういう人たちは本当に気をつけないと。ただね、人間って本当にやばくなるまでやばいとは思わないところもあって。僕も若い頃は特に全然気にしていなかった。うるさいなと思ったら耳がキーンとなって、でもすぐ治る、という繰り返しをして、そのうちキーンが戻らなくなっちゃった。

個人の耳の形状をメディカルシリコンで成形されたオーダーメイドのイヤプラグ。装着するフィルターで遮音量を25,15,9dBに調整できる。

大八木:それでイヤプラグをつくろうと?

安藤:とにかく耳鳴りがひどくて音が耳の中でワンワン鳴って。なにしろ周りの音がうるさかったので耳栓をしてみましたが、オーケストラでは特に市販品では音域周波数が変にカットされるので、まったく仕事にならない。バンドとかなら練習くらいはできますけど、オーケストラはより繊細なので、いろんな楽器の音を聴かなければいけないとなると耳栓は不自由でした。ドイツのオーケストラの打楽器の知人に、そういった耳の話をしたら、彼が、アメリカのメーカーのもので、自分の耳に合わせて作った耳栓を仕事中ほぼ100%使っていると、ドイツでも売っているなんとかって名前を教えてくれて。遮音レベルが25dBカットと15 dBカットと10 dB(Sensaphonicsの場合は9dB)カットというのも同じだったので、センサフォニクスのものだったのかもしれないですけど、僕も日本で探してこのミュージシャンイヤプラグにたどり着きました。

■吹奏楽関係者のニーズは高い?

大八木:耳に関して、オーケストラの方々の実情はどうですか?

安藤:演奏しながらうるさいと思っている人はいっぱいいますよ。木管楽器の人は金管楽器の音が常にうるさいと思っているし、金管楽器の人は打楽器の音が常にうるさいと思っているし。だから、最近は後頭部から耳にかけて遮音器具のついた椅子もあるし、それを使っているオーケストラもあります。ただ、問題を抱えていても、聴こえが悪くなってしまったらもう仕方がないと諦めている人がほとんど。だから、そうならないようにと。自分の息子も打楽器をやっているので、とにかく『そのままの耳で練習するな』とずっと言っています。子どもには、耳栓をすることはストレスにはならないと話していますが、実際に試してみないとわからないですよね。

大八木:遮蔽板(※1)を間に入れて演奏することもありますか?

安藤:はい。うちも遮蔽板はあって周囲の楽器が近いときには立てますが、そもそも音の方向性がまったく変わってしまうので絶対よくない。ティンパニの前に立てられると自分の音が返ってきちゃうので非常に嫌ですし、自分の耳にとっては逆によくない。だから大八木さんから以前、韓国のオーケストラから楽団員全員分のミュージシャンイヤプラグのオーダーがあったということをうかがって、いいなと思いました。この間は吹奏楽コンクールの審査員をやりましたが、高校生の音ってとにかく大きくて。もちろんミュージシャンイヤプラグを使いましたが、耳栓して審査? と思われるのは不本意なので、この耳栓は遮音しながら正確な音が聴けると説明したら、みなさん非常に興味持っていました。


(※1)オーケストラでは後ろの楽器から放たれる音によるダメージを軽減するため、遮音ボード(透明なアクリル板)を置くことがある。

大八木:京都の高校の吹奏楽の先生で、耳が痛いけれど指導しなければならないとイヤプラグを導入された方もおられましたね。

安藤吹奏楽の先生なんて、狭い音楽室で全力の演奏を聞き続けるわけだからきついに決まっていますよ。ミュージシャンイヤプラグの存在を知れば買う人はかなりいると思いますよ。

大八木:そうですよね。騒音性難聴に関しては完全には治せないので、早く導入していただくというのがいちばんご本人のためになる。

安藤:そう思いますね。あまり吹奏楽関係にはプロモーションしていないようですが、関連の専門誌などに紹介したらかなり反響あると思いますよ。

大八木:電気回路を使うイヤモニターのほうはロック系を中心にかなり普及したので、今度はミュージシャンイヤプラグですね。イヤモニターも使い始めはミュージシャン一人ひとりにご説明して、今はみなさんに使っていただけるようになりました。

安藤:ステージに箱モニター(注:フットスピーカー)置かなくなりましたもんね。

大八木:ええ。でも音響的なものを使わず生の音で演奏される方ですと、イヤモニターは使いようがなく、それでいて同じように耳の問題を抱えていらっしゃる方は多いので。従来から耳栓はありましたたが、近年は耳の問題も多く出てきているので、このイヤプラグに関してもっとお伝えしなくちゃいけないなと。

安藤:それがいいと思います。

■最大遮音タイプを使用しているが…

大八木:で、どうでしょう、使ってみて。音が歪むとか、演奏に支障があるとか、問題はありますか?

安藤:やっぱり少しヴェールがかかったように聴こえるときもありますよね。それは仕方ないだろうと思って使っていますが。なので、相当神経を使うときは、いちばん少ない遮音量にしてもないほうがいいと思うときはあります。だから使わないことも多いです。

大八木:フィルターのカット数はシチュエーションで変えて?

安藤:最初のうちはそうでしたけど、なんか面倒くさくなっちゃって、いちばん遮音量が大きいのをずっと着けっぱなしです。

大八木:今、25dBですね、相当カットが大きいですね。

安藤:演奏会本番では使いませんけど、直前までとか、練習のときは使います。あと僕、音楽大学でのレッスンが多く、狭い部屋で太鼓ボコボコで。そのときはもうホントにないとだめですね、うるさくてうるさくて。ただ、装着中は自分の話し声が中でこもりますよね。これはどうにもならないですか?

大八木:そうですね。自閉塞の音の感じですかね。

安藤:レッスンでは聴いてしゃべるので、それがうるさいですね、自分の声が。聴いていて『こら! 違う!』なんていう声がうるさい。だから毎回、ちょっと演奏を聴いたら外してしゃべって、みたいになっています。

大八木:自分の音はよく聴こえてくるものなので。ロック系の方だと会場の音が大きいので、外から再び耳に入ってくる自分の出した音や声がなくなっちゃうんです。でも耳栓をしていると、中でこもっている部分が響くのでよく聴こえる。逆にそれを利用するみたいですね。

安藤:なるほど。なんとかなるといいけどな、自分の声がワンワン響く感じ。外の音は少し収まって自分の声は3倍くらい大きく聴こえるので、その感じがなんとも。

大八木:難しいところですね。我々もご指導されている方については想定していない、演奏家のシチュエーションを想定しているので。話をする、ご自分も声を出す、考えてみれば当然ですが、教えていただくまで想像してなかったですね。対処法としてはインカムみたいなものを着けるか。大きな会場だとどうしても肉声では届かないので、インカムマイク使いますよね。あれなら小さい声でもある程度ヴォリュームをコントロールできますけど。

安藤:それは大変だなあ。

■フィルター以外は水や洗剤で洗浄を

安藤:(自身のイヤプラグを見て)そうそう、汚れてきたから掃除しようと思っていたところです。

大八木:クリーニングは、フィルターを外してハンドソープみたいなもので洗っていただければ。シリコン自体は医療用なので酸にもアルカリにも強い素材です。ザーッと水洗いしても、固形石鹸を使っても大丈夫ですよ。

安藤:これは劣化したりしないものなのですか?

大八木:ちょっと色がくすんできますけど、自分のは2004年に最初に作ったものを今も使っていて、みなさん10年くらいは平気で使っていらっしゃいます。このシリコンはとても優秀で、硬化してヒビが入ったり破れたりすることはないですね。フィルターは、特にゴミが付着して詰まってしまうことがなければそのままで。

安藤:フィルターは何でできているんですか?

大八木:素材はプラスチック系の外形で、中に音の透過のための薄い被膜とメッシュ膜があります。フィルターはアメリカでつくっていて特許のある製品ですが、企業秘密もあるようで他ではつくれないと言われていますね。やっぱり周波数を変えずに同じ音質のまま音量のみ下げるというのが、他のどんな素材でやってもできないものなので。

2013.12.26 インタビュー 於:東京文化会館、2021.5.26 追記改訂

【PART 2へ続く】

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