イーグルス、ビリー・ジョエル、オジー・オズボーンからマルーン5、コールドプレイ、ビヨンセ、レディー・ガガまで、今やグラミー受賞者の大半がSensaphonicsのIEMを愛用している。日本でも長渕剛、桑田佳祐、椎名林檎……著名なトップアーティストほどシリコン製IEMを支持しているのは何故なのか? その理由を探ってみる。
IEMにおけるシリコン素材の優位性について
安全性
2019年2月、WHO(世界保健機関)はスマートフォンを含むオーディオ機器を中心に、音量規制に関する初の国際基準を発表した。背景にあるのは、大音量の音楽を長時間聴くことによって危険性が高まっている、若者の難聴問題である。WHOは安全な音量の目安として、大人は地下鉄の車内に相当する80dB 、子どもは75dBを限度に、1週間に40時間までと設定した(原名「NEW WHO-ITU STANDARD」)。改めて、音楽を聴く音量が聴覚器官に対して大きく影響することを公式に警告したのだ。
実は、イヤフォンなどで聴く音量は外部の音量より20dB大きくしないと、環境音(外部音)が雑音として聴こえてしまう。仮に80dBの地下鉄にいれば、イヤフォンの音楽は100dBにしたくなる。安全な音量の上限を超えてしまうのだ。
しかしここで30dBの遮音ができるイヤフォンを使用すれば、ノイズとなる環境音が50dB(80-30dB)になり、聴く音楽は70dB(50+20dB)に下げられる。これはライヴ会場でもまったく同じ仕組みだ。
“確実な遮音”によって無駄な外部音が排除されれば、聴きたい音を聴くために無理に音量を上げる必要はなくなる。つまり、聴覚の安全のためにはイヤフォンの遮音量が最も重要であり、世界で最大の遮音性を実現しているのが、シリコン製のイン・イヤー・モニター(IEM)なのである。
dB=デシベル…音の大きさ(音圧)を表す単位で、3dB減少すると受動するエネルギー量は1/2になる。
快適性
では、シリコン製は何故、他素材のIEMより遮音性に優れるのか。実際、遮音効果を上げるには何より隙間をなくすことがポイントだ。しかし、一般の硬いアクリル製では痛みが生じてしまうため、耳に密着させるのに限界がある。これに対し、柔らかいシリコンはIEMを大きめにつくっても痛みが出にくく、長時間でも快適に、しっかり遮音できるのだ。遮音効果が飛躍的に高まる外耳道第2カーヴから先も、負担をかけずに圧迫が可能。ここは硬い頭蓋骨内に位置し、痛みが強く出てしまう部位だけに、アクリル製では不可能なことだ。
プロユーザーの言葉を借りるなら、「着けているのを忘れるほど自然で心地よい装着感」。弾力としなやかさによって強くフィットし、耳の中でズレることなく、激しい動きや衝撃にも適応。ましてや、耳から外れてしまうことなど無縁だ。そんなシリコン製IEMには、ステージ上でアーティストがどれほどハードにパフォーマンスしても、「快適で安心できる」といった信頼性があるのだ。
音響性
シリコン製のメリットはそれだけではない。実は、イヤフォンで聴く音には、低音域帯ほど先に抜けやすい、という特性がある。しっかり遮音ができていないIEMでは、真っ先に低音域が減衰するため音質バランスの崩れた状態となり、“本来の正確な音の再現”ができない。当然、外部音も侵入し、聴く環境によって音量・音質に差が生じてしまうのだ。
その点、遮音効果の高いシリコン製IEMは、低音域の減少を最大限防止し、低~高音域帯までその音本来の音質バランスで聴くことができる。当然、外部から侵入する音の影響も少なく、安定した音質を必要最小限の音量で聴くことが可能なのだ。
そして遮音性能が高いと個人差が発生しにくくなる。米国のペンシルべニア州立大学に付属する音響心理学の研究所による実験レポートでは、装着者間の標準偏差値は3.2dB~4.5dBであった。この数値は驚くほど個人差が無いと言う事を示している。耳の形状や痛みの発生ポイント、圧迫への好みなど個人差があるにも係わらずである。
プロにとってはこれが非常に重要となる。ミュージシャンや音響エンジニアがそれぞれ遮音率の異なるIEMを使えば、元が同じ音源でも音量だけでなく音質バランスが統一されず、聴いている音が変わる。これは、バンド内でメンバーそれぞれが違うブランドのIEMを使う場合も然り。聴こえる音に共通認識を持てなければ、音楽的コンセンサスどころの話ではない。良い音楽やパフォーマンスを提供するために、関係者すべてが“正確で同じ音”を共有することは不可欠だ。それを最高水準で可能にしているシリコン製IEMは、ミュージシャンの音楽性の向上にも貢献している、ということだ。
現在、世界中にIEMメーカーは数えきれないほどあるが20年にもわたり、シリコン製IEMを提供し続けているのはSensaphonicsだけである。同社が採用しているメディカルグレードのソフトシリコンは、最上級の柔軟性・耐久性に加え、人の皮膚に適応しやすい性質を持つが、その一方で、加工が困難な素材でもある。にもかかわらず、同社が、他社の追随を許さないほどシリコン製にこだわり続け、トップグレードを望むアーティストに選ばれ続けてきたのには、しかるべき理由があったということだ。
騒音の多い現代社会で暮らす我々にとっても、自らの耳を守りながら音楽を愉しみ続けるためには、シリコン製の選択が有効といえそうだ。