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楽器フェアにて“IEM対談” with 吉本ヒロ(ドラマー)
( IEM Talk Show With Hiro Yoshimoto In 2018 Musical Instruments Fair)

「2018楽器フェア」最終日となる10月21日、「e☆イヤホン」ブースのステージに、ドラマー&カホン奏者として活躍中の吉本ヒロ氏と、カスタムIEM(イン・イヤーモニター)のトップ・ブランドであるセンサフォニクス・ジャパンの大八木哲夫代表が登場!

「イヤモニってどーなの?」と題したスペシャル対談を繰り広げました。ここでは、その模様をダイジェストでお届けします。

司会者「今日は通常なかなか聞けないお話も出てくると思いますので、さっそくお2人にうかがってみましょう」

大八木「まず、センサフォニクスのイヤモニについてご紹介しますと、日本でのスタートは2004年。これが日本での最初のイヤモニの幕開けとなった訳ですが。シリコン製というのが大きな特徴で、遮音性が非常に高いというメリットがあります。この会場も非常に大きな音が出ていて自分の聴きたい音が聴きにくい状態ですが、これはライブハウスやコンサートホールでも同じで、イヤモニを使うことで自分の音が聴きとりやすくなる。基本的にはそのための装置です。今日はドラマーの吉本ヒロさんに、実際にイヤモニを使ったときにどういうことが起こっているか、ユーザーとしての本音をお聞きしたいと思います」

会場となった東京ビックサイトには例年同様、さまざまな楽器、新製品、レア情報に触れようと、多くの人々が訪れた

吉本「はい、よろしくお願いします」

◆ステージ上でのメリットは顕著

大八木「そもそも、イヤモニをライブハウスやコンサートホールで使うとどのような効果があるのでしょう?」

吉本「会場によっていろいろなモニター環境があるので、イヤモニを着けることによって、本来出ている音を自分の耳元で聴けるというのがメリット。会場によって転がしのモニターを置いていただいても、全体のバンドが鳴っているときにきちんと聴き取れず、モニターの音量を上げてしまって外に出る音に影響してしまうことがあるので、自分の耳元で聴けるのは大きいと思います」

大八木「ヴォーカルやギターだとステージ上を大きく動きます。その際にイヤモニの使用による影響は、大きく変わると思うのですが」

吉本「会場が大きいと、ヴォーカリストやギタリストは転がしのモニターから1m離れるだけで、全然聴こえなくなったりしますね。イヤモニを着けていればどんな場所に移動しても、自分たちの出している音が常に良い状態で聴こえてくる、というのは大きな違いです」

大八木「ステージ上を自由に移動できることよってライヴ時の演出に影響が出ているように思いますが、イヤモニだからこういうステージ演出にするということは?」

吉本「起きていると思いますね。たとえばミキサーの方から合図を送ったりキュー出しをしたりも可能なので、ショーなどにも最適だと思いますね。演者だけに何かを伝えるのも、イヤモニだとお客さんに悟られることなく入ってきますし」

大八木「MC長いぞー、とかね」

吉本「あははは、そうそう。これが変更になったから次はこの曲で行きましょう、とか」

◆ドラム演奏にも効果的なシリコン製

大八木「よくドラムの人と話をすると、大きなホール、ドームなどでは刻んだ音が跳ね返って戻ってきてしまうと。そこでどれが今、自分の刻んでいる音なのかわからなくなってくる、ミックスされちゃう。で、イヤモニを使うとそういうのが遮音されるので、ホールに出ている音、こだまのように戻ってきた音というのが聴こえなくなる。そういうことはありますか?」

「みなさんも耳に指を入れてみてください」と その場でオーディエンスに促しながら説明

吉本「あると思います。僕は残念ながらまだドームでは演奏したことはないですが、センサフォニクスのイヤモニはシリコン製で、カナル=耳に入れる部分が長いので、中の空間が密閉されますよね。たとえば、今いろんな音が鳴っていて、実際に両耳に指を入れていただくとわかると思うんですけど、軽く指を入れて耳を塞いだときとしっかり耳の奥まで指を入れたときでは、音の聴こえ方が変わる。しっかり密閉したほうがより遮音性が高くなる。センサフォニクスのイヤモニはまさしくそういうこと。他のカナル型のものとは全然違って、ものすごく密閉されるので、回り込んでくる音が気にならない。聴こえてくるモニターの音だけに集中できる」

大八木「レコーディングとライヴで使用感に違いは?」

吉本「やっぱりライヴのほうが難しい、というか、外の音の影響が大きいかと。たとえば近くにギターアンプがあったりするだけで、体感する響きが全然違いますから。レコーディングでは生ドラムの音だけがあってそれを感じて、他の音はモニターから来ますけど」

大八木「そうすると、レコーディングのほうが使うのが簡単?」

吉本「そうですね、より音の違いがしっかりわかります。ヘッドフォンでレコーディングするのとイヤモニでするのは全然違いますね。単純に、まず遮音性が違う。ヘッドフォンだときちっと装着しても生音がバンバン入ってくるし、そのぶんモニタリングの音量を上げないといけなくなる。ヘッドフォンからの音漏れもするので。けっこう、耳元で爆音を鳴らしながら生音も爆音で叩くっていうと、混雑した状況で。でも、イヤモニを着けると遮音性が高いので、生で叩いている音は聴こえなくなって、耳に流してもらっている音ももちろん外に流れていかない。で、良い状態で流していただければ、力むことなく自然な状態で叩ける」

◆耳を守ることには意義がある

実際、楽器フェアではあちこちで演奏が行われ、音が散乱している

大八木「シリコンでイヤモニをつくることの最初の目的が、そういう遮音性を上げることで。このイヤモニは、アーティストの難聴問題が非常に多くなって、それを防ぐためのアイテムとして開発された経緯がありますけど、やはり大きな音でライヴを続けていると、体への悪影響は感じられますか?」

吉本「そうですね。僕は昨日も楽器フェアにいましたが、一日中いろんな音を聴いているとそれだけで思った以上に脳みそとか体に疲労を感じるので、特に意識していなくても、大きな音の出る楽器を演奏していると、ものすごい疲労はあると思います。そのときはよくても、20年30年ずっと楽器を続けたいなと思ったときに、耳をやられてしまうことを考えると、まだ問題がないうちに耳を守って音楽と向き合っていくのは、意義のあることだと思います。ちゃんとしたイヤモニを使えば、音量を下げた状態で大きな音にせずともクリアに聴こえるので、耳とか体にはいいと思います」

◆フラットでクリア音質が好感触

途中から興味津々で集まってきた人たちを含め、対談はかなりの盛況ぶり

大八木「ちょっと視点を変えてみますが、イヤモニに限らずイヤフォン、ヘッドフォンというのは、音質のバランスを必ず設定してつくります。イヤモニの場合はモニターバランスのもの、つまり基本的にフラットな状態ですね。癖のない、そういう音質というのは、使う機材によって違いが出ますか?」

吉本「たとえば、僕は1年ちょっとセンサフォニクスのイヤモニを使っていますが、市販されているイヤフォンを使って同じ音源を聴き比べたところ、全然聴こえ方が違う。普段手頃なイヤフォンは思った以上に味付けされているなあって実感したので、できるだけフラットにモニターできるというのは大きなことかなと」

大八木「演奏するときと音楽を楽しむとき、同じ音楽を聴くにしても目的が違うと思いますが、演奏が目的の場合はどういうモニターの音質がいいですか?」

吉本「とにかくクリア。クリアがいいです。高域も低域もミドルも、全部の帯域でくぐもった感じがなくクリアに聴こえてくれれば、モニターの音量をかなり下げた状態で弾ける」

◆遮音性を保ち柔軟性をグレードアップ

吉本「あと、僕は叩きながらコーラスワークをすることがありますが、シリコンでしっかり密閉されていると、顎を動かしてもほぼずれない。僕は使ったことないですけど、アクリルだと顎を動かすだけで音の変化が出てくるって聴いたことがありますね」

大八木「すごく細かい話ですが、カナル(外耳道)の先端部分というのが顎の動きに連動して変形するんですね。そこの形が変わるとイヤモニが押し出される原因にもなる。最近うちでつくった製品で“Move-InterLock”という機構があって、それなら外耳道の変形に繋がって一緒に動くという」

吉本「耳の中が動いても、それにイヤモニの先端がついてくる」

大八木「これが今、イヤモニでどのメーカーでもいちばん問題が出る部分。ヴォーカリストの顎の動きによって緩んできたり、外の音が聴こえてしまったり。桑田佳祐さんもずっとその問題を抱えていましたけれど、昨年秋のツアーからそのバージョンに切り替えて使い始めたら、顎が動いた時に外の音が聴こえる現象が起きなくなったというのは…」

吉本「改善された」

大八木「ええ。非常に安定している。遮音性が確保できているのは、非常に大事だと思いますね。基本的にメーカーとしてはイヤモニの存在感を感じない、ライヴ後に『あ、イヤモニ着けてた』って言われるような製品を目指しているんですけどね」

◆アーティストが目指した音で聴くには?

吉本「ははは。でも、それぐらい自然に演奏に集中できるものでないと、やっぱり。さらに、ただミュージシャンとして使うだけでなく、いろんな音源を聴く機会が多いので、リスニング用としても効果を発揮するものが…」

大八木「モニターバランスでできている製品ですね。アーティストはマスタリングも含め、全部モニターバランスでCDを作成しているわけです。アーティストがつくったときに、これでいいよってOKを出した音質バランスがモニターバランスなんですよ。で、イヤフォンにしろ、ステレオセットにしろ、モニターバランスのもので聴くことが、そのアーティストが目指したものを直接感じられることになる。これが味付けのあるイヤフォンで聴くと、違う音になってしまう。つくり手としては、自分たちが設定した音で聴いてほしいという希望はありますか?」

吉本「そうですね、ありますね。たとえば、この曲はラジカセで聴く、この曲はスピーカーで大音量で、この曲はイヤフォンで、これはカーステレオで聴く。音の楽しみ方はいろいろあっていいと思いますけど、その選択肢として、つくり手側がどういうものを目指してつくったかというのを素の状態で聴くなら、イヤモニがリスニング用としても活躍するのは間違いない。そういう楽しみ方をするリスナーの方が増えるとすごくいいかなって思いますね」

◆良い状態で音楽に向き合える環境づくりを

トーク終了後には参加者たちの質問にも気さくに応答

大八木「ちなみに、ライヴでイヤモニを使うための必要条件というのは、エンジニアさんと協力してというのが多いですよね」

吉本「ただただイヤモニを使えばいろいろ良くなるわけではないです。それで、モニターに音をつくってくださる方の力が必要になる。とにかく、いちばんに言えることは、いかに耳を守って、ちゃんとした良い状態で音楽と向き合えるかっていう環境づくりだと思うので、みんなの、ミュージシャンの考えるレベルが日本でもいろいろ議論されて、盛り上がっていくとまた良くなっていくという気はしますね」

大八木「今日いらしている方もみんな音楽が好きだと思いますが、大好きな音楽に自分の耳が壊されるというのは言語道断だと思うので。日頃の音量の問題もありますけど、特にアーティストさんはライヴの回数も多く音量も大きいので、よく考えて機種を選び、使い方を考えていただきたいですね。これからも吉本さん、ご活躍を」

吉本「ありがとうございます」

会場拍手。

【PROFILE】

吉本ヒロ―HIRO YOSHIMOTO― ドラマー&カホン奏者

12歳で打楽器と出会い、ドラムやカホンを中心に才能が開花。長崎大学(音楽科)在学中から、楽曲がハウステンボスのCMに起用されるなどの活躍をみせ、卒業後に上京すると「ROAD to MAJOR」第一回大会で優勝。これまでに川中美幸、北原ミレイ、杏子、つるの剛士ほか多くのアーティストと共演。また、日本屈指のカホン奏者としてカホン工房CHAANYと共同開発した、“吉本ヒロモデル・カホン”が2018年9月に発売されたばかりである。話題沸騰中の凄腕ロックバンド“YAMONES*のドラマーとしても注目されている。

*YAMONES「Tonight」https://www.youtube.com/watch?v=BGmQeCdt3sM

大八木哲夫―TETSUO OOYAGI― センサフォニクス・ジャパン代表 【ジェイフォニック㈱代表取締役】

世界屈指のIEMブランドを牽引するとともに、長淵剛、桑田佳祐、椎名林檎、そして今年大きな話題となった安室奈美恵など、多くの国内アーティストのイヤーモニターを製造。米国アーティストではアッシャーやビヨンセなども担当している。2004年に日本初のIEMを製造して以来、現在でも新機種開発を手掛けるイヤモニ・クリエーターであり、実は“カスタムIEM”という呼称の命名者。この十数年は米国本社と連動し、音楽家の聴覚保護運動にも精力的に取り組んでいる。

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